鬼滅の刃は週刊少年ジャンプで連載中の漫画であり、コミックの発行部数は2019年末の段階で2500万部を超えています。
そのアニメもテレビでの放送は終了しましたが、映画が製作されていて多くのファンが楽しみにしている状況です。
一般的にはコミックの人気が高い作品が映像化される流れになりますが、本作はそれとは少し違った形になっていました。
もともとは爆発的とはいえないぐらいの人気に留まっていたからです。
他の看板作品と比べると力不足といっても過言ではない状態でしたが、それが映像化されたことにより一気にブレイクした形になっています。
具体的には2019年の4月から原作の前半部分を題材にして制作されました。
9月に終了するまでに、7巻の初めの部分までが映像になっています。
2020年に公開が予定されている映画はその続編にあたるものです。
このアニメが非常に高い評価を得て社会現象に近い状態になりました。
それによってコミックの売上も急激に上昇し、品薄になってしまう書店が続出しているほどです。
1人1冊などの購入制限をかける書店もあれば、万引き対策としてカウンターで声をかけないと出してくれない書店もあります。
いずれによ近年まれに見る売れ行きを見せており、過去のジャンプの看板作品たちと肩を並べるほどの売上になりつつあるのです。
アニメ化による恩恵が大きいのは広く知られていますが、具体的なポイントを把握している人は少ないでしょう。
まずは2クールを確保した制作スタッフの見通しの良さが挙げられます。
最初から人気があって視聴率を見込みやすい作品の場合、2クールを確保することは決して珍しくありません。
しかし本作のように、人気作とは言いがたい場合は1クールに留めておくのが一般的となっています。
つまり例外ともいえる選択がなされていたというわけです。
本作は主人公の成長が物語の大きな柱となっています。
どこにでもいる普通の少年だった主人公が、鬼に家族を惨殺されるという悲劇を迎えるのがスタートです。
生き残ったが鬼になってしまった妹を元に戻すために旅を始め、敵対する鬼を倒す力を修行によって身につけていきます。
その過程で恩師や友人との出会いがあり、数々の苦難を乗り越えていくという話です。
スタッフは、これを描こうとすると1クールでは全然足りないと判断しました。
実際、2クールと映画を合わせても足りておらず、その後も物語は長く続いています。
無理やり1クールに押し込んでいれば、あらすじを雑に扱っていくだけの作品に成り下がり、このような高い評価を得ることは叶わなかったでしょう。
さらに、本作の評価として絶賛が相次いでいるのは、アニメ化のクオリティの高さが大きく関係しています。
こちらを任された制作会社は、外部に委託するという一般的な手法を用いませんでした。
脚本から撮影までのほぼすべての工程を社内で行うというこだわりを見せました。
その結果、他のアニメ映画と比べても遜色ないほどのクオリティで毎回放送されることになったのです。
原作の漫画の画力は決して高いとはいえず、むしろ週刊少年ジャンプに連載されている作品の中では下位にあたります。
構図などは悪くなくてテンポも良いので決して読みにくいわけではありません。
しかし昨今の高い画力で描かれた漫画と比べると、どこか稚拙な雰囲気が出てしまっています。
それに対して映像のほうは、他の作品よりもはるかに高いレベルに仕上げられていたのです。
もとからのファンはそのギャップに驚かされ、漫画を知らなかった人も作品の世界観に引き込まれていきました。
たとえば漫画では単純に鬼を切っているように見えるシーンでも、アニメのほうでは多くのエフェクトが盛り込まれることで芸術的な描写になっています。
作者がイメージしていた以上に、キャラクターが躍動感を持って動いている状態です。
それに魅了された人たちは、原作を読むときも自然とそのような映像が脳裏に浮かぶようになります。
むしろ漫画の画力が低いからこそ、イメージをかき立てる余地が残っているのです。
その相乗効果によって、映像と漫画がともに大ヒットするという結果につながりました。
さらにクオリティ面だけでなく、良い方向でオリジナル要素が組み込まれていたのも重要なポイントです。
監督のこだわりなどにより、無理にオリジナルの要素を組み込んで、原作のファンに反感を買ってしまう作品は珍しくありません。
しかし本作は大正と時代を丁寧に描く方針に切り替えたことで、良い意味でノンフィクションに近づけられました。
もちろん作品自体は完全なファンタジーですが、どこかリアリティのある仕上がりになっているのはそのためです。
着物などのテクスチャを手書きにして温かみを出すなど、いろいろな面で配慮を欠かしていません。
浮世絵をモチーフにした描写も多く、洋風のようなスタイリッシュな世界観と馴染みやすい和風の世界観がマッチしています。