喧嘩稼業の作者は木多康昭先生で過去の作品では奇想天外な展開が多く、かなり特異な作品であったと記憶しています。
前作の喧嘩商売でも際どいギャグが多く、賛否両論あるとは思いますが、楽しく執筆しているのが感じられました。
喧嘩商売ではギャグのみの回もあったのですが、今作では一旦ギャグ回は封印しています。
中断することなくストーリーが進むので内容も理解しやすくなっています。
作中には芸人そっくりな観客がいたり、やらかした芸能人などが巻末のおまけページで登場することもあります。
細かい部分に木多先生テイストが散りばめられており、ブラックジョークも健在です。
「最強の格闘技とは何か?」というメインテーマのもと、様々な格闘家が登場する本作品。
戦闘スタイルも実に様々で各格闘技の特徴もよく説明されています。
前作の喧嘩商売では佐藤十兵衛が強くなっていく過程とともに、喧嘩稼業から始まる陰陽トーナメントの選手紹介という面もありました。
そして、喧嘩稼業にタイトルを変え、いよいよ始まる陰陽トーナメント。
ルールはいわゆる何でもありのバーリトゥードとなっています。
目つきや金的ももちろん反則ではありません。現実ではテレビ放送も不可能な過激なルール設定です。
そして、登場する選手がどれも化け物ばかりです。
ミドルキックで鎖骨を折ってしまう最強キックボクサー。
素手で闘牛を倒してしまう過去最強横綱など。
こうした表に登場する選手は陽側と呼ばれます。
少林寺拳法の使い手など、明らかにフィジカルで劣っている選手もいるので、その差をいかに埋めるのかにも注目です。
対して表舞台に出てこない、古武術や忍術を得意とする、陰側の選手も登場します。
「最強の格闘技は何か?」というテーマにぴったりで、決して表に出ることのない武術を駆使し、目つき、金的、時には相手を殺すことにも躊躇しない、非情な戦いを繰り広げます。
作品の特徴でもありますが、リング外でも各選手は動きます。
主に陰側の選手はリング外でも様々な仕掛けを行い、いかに自分が有利に戦えるかの思考戦も繰り広げられます。
スポーツマンシップなどという言葉はありえないのです。精神的なゆさぶりや毒を盛ったりは当たり前。
因縁のある選手同士をリング外で戦わせようという動きもあったほどです。
そして注目すべき点は、主人公である佐藤十兵衛。
彼は自分の弱さを認識し、頭を使って戦うことが得意だということです。
十兵衛が戦う際には様々な仕掛けを用意しています。それは反則すれすれであったり、反則ではあるが、それを覆す仕掛けを用意していたりします。
作中ではトップクラスに汚い手を使います。ドーピングなんかは当たり前。しかし、それを含めて勝ち進んでいくことが、十兵衛にとっての強さなのです。
フィジカルや技術で勝敗をつけていくのは他の格闘家たち。十兵衛は策略を用いて勝利を目指します。
今までの格闘マンガではありえない構成です。
他の漫画で、主人公が努力を重ねて苦しみながら勝利するシーンは見てきましたが、堂々と反則技を使って勝っていく主人公は見たことがありません。
戦闘シーンの描写も非常に細かくなっています。格闘技ごとの特徴や、技の解説などはそれほど無理のあるものでもなく、納得できる内容です。
登場人物が化け物過ぎて、多少の無理はありますが。もちろん専門家から見れば設定に疑問を抱くこともあるのでしょうが、素人目線には問題ありません。
純粋な力や技術だけでなく、戦術や策略を用いて戦う格闘家達。リング外の駆け引きがすでに勝敗に大きな影響を与えることになります。
今までに見たことのない格闘マンガです。
強さの定義は他の漫画とは明らかに異なりますし、普通は敵側がするような策略を主人公が使い、自信満々の笑顔で葬ります。ダークヒーローと言って差し支えないでしょう。
そうした要素抜きにしても、空手、相撲、ボクシングなど、様々な格闘家が登場し、殴り合います。
純粋な格闘描写だけでも十分に楽しめます。正々堂々やスポーツマンシップなどはこの漫画に必要ありません。
どんな手を使ってでも勝つことを、主人公が体現していきます。