「寅次郎」という言葉を聞くと、「フーテンの寅さん」という言葉が浮かんできます。
主演をつとめていた渥美清さんが亡くなられてしまっているので、現在は過去に発表された作品を見るしかありません。
しかし、この「少年寅次郎」は亡くなってしまった渥美清さんを登場させることなく、渥美清さんを感じさせてくれるドラマでもあると思います。
正直言って、ドラマのタイトルを見たときに、何だか古めかしくて、その内容はあまり期待していませんでした。
しかし、何となく気になり視聴しました。
結論としては視聴してとても良かったと思っています。
寅さんがこの世に誕生することになったいきさつから始まっているので、「あぁ、そういうことで寅さんがこの世の中に誕生したのか。それで、このあとはどうなるんだろう?」という風に、どんどんドラマに引き込まれてしまいました。
寅次郎は、寅次郎の父親とその不倫相手との間に生まれた子供でした。
寅次郎は、父親の家の前に捨てられていました。
寅次郎の父親の嫁は、寅次郎が自分の夫の不倫の子であることを知りながら、大切に育てます。
ドラマの登場人物の話し方は、まるで、「フーテンの寅さん」の映画を見ているような話し方をしています。
江戸っ子はこんな話し方をしていたのでしょう。
お義母さん役の井上真央さんは、若いのに、その当時の人たちはこんな風だったのだろうと思わせてくれる身のこなし方、話し方をしています。
もちろんそのような身のこなし方、話し方は、お義母さんだけではなく、他の登場人物も同じです。
ドラマの中に新しい登場人物が出てくるたびに、「あっ、あの人は昔こんな風だったんだ!」と映画の登場人物と、ドラマの登場人物を何の違和感もなく結びつけることができます。
全く異なる時代に作られている映画とドラマなのに、2作品はひとつの作品であると思えてきます。
映画「フーテンの寅さん」には人情味があふれていました。
この「少年寅次郎」というドラマにも人情味があふれていて心が温かくなるような気がします。
寅次郎の父親は、寅次郎を可愛いがりません。
むしろ馬鹿にしているようにも見えてしまいます。
もしかするとそれは下町に住む人の愛情の表し方なのかもしれませんが、寅次郎にはわかりません。
寅次郎は、父親からは愛されていないと感じながらも一生懸命に生きています。
その生き方を見ていると、映画の中での寅さんの生き方を理解できるような気持になります。
寅さんは映画の中で、妹のサクラをとても可愛がっています。
ドラマの中でもサクラの面倒をよく見て可愛がっています。
ドラマの中の出来事ひとつひとつが映画とつながっています。
渥美清さんが亡くなって、あの映画はもう見ることができないと思っていましたが、このような形でまた、見ることができました。
若い人は、「少年寅次郎」というドラマを視聴し、シニア世代は、「少年寅次郎」というドラマを視聴しながら、その向こう側に「フーテンの寅さん」を思い描いているのではないでしょうか。
ひとつのドラマでありながら、男性も女性も、老いも若きも、人情の温かさや、時には涙する場面を共有できるるドラマになっていると思います。
10月からは各局の新ドラマが目白押しです。
そんな中で、「少年寅次郎」というタイトルは決して人を惹きつけるとは言えない、むしろ地味なタイトルにしか見えないかもしれません。
しかし、この人情味あふれるドラマ、ややもすると殺伐感のある現代社会に、なにか大切なものを提起してくれているような気がします。
このドラマは、10月19日(土)に始まり、全5話です。まだまだ間に合います。
是非視聴してみてはいかがでしょうか。