2013年公開のインド映画です。
原題は「Three Idiots(三人のバカ)」。
その名が示すとおり、インドの超名門インド工科大学に入学しながらも、学業そっちのけでいたずらばかりを繰り返す、ランチョー、ファルハーシ、ラージューという三人の青年たちを描いた青春劇になっています。
本作は本国インドでは2009年に公開され、数あるインド映画の名作を抑え、歴代興行収入一位を記録しました。
また、インドアカデミー賞16部門に輝き、日本でも日本アカデミー賞優秀外国語作品賞を受賞しました。
詳しいあらすじの記述はここでは省きますが、この映画を見て個人的に一番印象に残ったのは、近年のボリウッド映画の驚くべき質の向上です。
ほぼ三時間という長尺ながら脚本にはまったく無駄がなく、始めから終わりまで「いかに客を楽しませるか」という精神を一貫して貫いています。
物語の筋自体には若干ご都合主義的なところもありますが、それもまた、コメディ映画である本作ではかえって効果的に働いていて、肩肘張らずに純粋に作品を楽しむことができます。
私自身、見ている途中も笑いあり、涙あり、歌あり、踊りあり、で、一切退屈することはありませんでた。
要所要所に散りばめられた伏線の貼り方とその回収も見事で、脚本家の並々ならぬ技量を感じさせます。
さらに映像も素晴らしいです。デジタル技術や空撮を効果的に取り入れた演出は、最新のハリウッド映画と比較してほぼ遜色がないくらい。
インド特有の鮮やかで爽やかな色彩感覚は、暗い映像が多い邦画に慣れてしまった目にはとても新鮮でした。
そして音楽はまさにインドそのもの。劇中にこれでもかと挿入されるインドポップスは、それが作られた国自身と同様に隠すことのできないアクの強さがありますが、映画も後半に差し掛かる頃にはその底抜けの個性に中毒していることでしょう。
本作は一見、どこまでも明るい喜劇映画という体裁を取っているように見えます。
しかし、その根底に流れる主題は、過度の受験競争や、それに巻き込まれた若者たちの自殺、社会による価値観の強制とそこからの自由などという、現代のインドの社会問題を根深く反映させたものとなっています。
並の作品ではこうした社会問題を真っ向から批判し、いわゆる「社会派映画」を作ってしまうところでしょうが、あくまで質の高いエンターテインメントとして仕上げているのが、この作品の素晴らしいところ。
見終わった後には爽やかな解放感に包まれて、厳しい現実の中でも楽観的に生きていこうという希望を抱かせてくれます。
インド映画といえば、まだ何かと偏見を持っておられる方もいるかもしれません。
しかしこの作品を見れば、ハリウッド映画にも邦画にもないその独特の魅力に気がつくことが出来るはずです。
かのスティーブン・スピルバーグ監督をして、「三回も見るほど好きだ」と言わせた本作。
あなたもこの作品からめくるめくるインド映画の沼にはまってみませんか。