『絶園のテンペスト』は原作:城平京、構成:左有秀、作画:彩崎廉という3人体制で描かれた現代ファンタジーです。コミックスはスクウェア・エニックスのガンガンコミックスから1〜9巻+事後談を収めたアンソロジー集の10巻が刊行されています。
城平先生はもともとミステリ作家であり、現在は漫画原作者としても活躍中です。最近だと『虚構推理』や『雨の日も神様と相撲を』などの作品を発表されています。
あらすじを簡単に説明しますと、主人公は、殺された妹の復讐を目的に高校を自主退学し姿をくらましていた不破真広と、そんな真広と腐れ縁だった同級生の滝川吉野です。真広は最強の魔法使いである鎖部葉風を、魔法を使えない絶海の孤島から助け出し、葉風に警察もさじを投げた妹殺しの犯人を魔法で見つけてもらうために旅をしており、吉野も腐れ縁だけあってその旅に巻き込まれていきます。
物語では、葉風と、彼女に加護を与える超越的な存在「はじまりの樹」VSそれらに不信感を持つ葉風以外の鎖部一族という構図が描き出されていきます。鎖部一族は「はじまりの樹」に対抗するため同じく超越的な存在である「絶園の樹」を封印から復活させようとします。
日本各地に甚大な被害を与えながら復活の儀式をすすめる鎖部一族の拠点を叩くため、二人は葉風の支持のもと、ある場所へ向かい、そこで、鎖部一族の長を名乗る男、鎖部左門と対峙する……という筋ですが、途中から話が大きく変わります。
変わるというよりは、物語の要請に応じる形で、あたかもそれまでとは違うジャンルの漫画であるかのように物語は進んでいきますが、最後まで読めば一貫した一つの物語であったことが読み取れると思います。前半と後半で話があまりに大きく変わるため、1部と2部というふうに呼び分けらることも。
ちなみに私は2部のほうが(全体を通して好きですが、強いて言えば)好きです。
続いてこの作品の見どころなどを紹介していきます。
まず、ひと目見てわかることなのですが、絵がとっても綺麗です。キャラクターデザインも凝っていて、特に主役2人のファッションはよく書き込まれています(しかもマンガに有りがちな、すべてのキャラが記号的にいつも同じ服を着ている、なんてこともなく、スーツや制服を除けば、豊富な衣装のバリエーションを観ることができます)。
ちなみにグルメ漫画というわけでもないのに、キャラが何かを食べるシーンの多いのですが、食べ物も一つ一つ丁寧に美味しそうに描かれています。
この作品のさらなる特徴として、シェイクスピアの戯曲からの引用が挙げられます。物語の随所にシェイクスピア四代悲劇の一つである『ハムレット』と、喜劇『テンペスト』からセリフが引用され物語に奥行きを与えています。
あえて少年漫画の王道を行かない、一味違ったストーリー展開も魅力です。1部ではアクションシーンも有りますが、作中で使用される魔法は攻撃ができまいという制約があり、その制約を乗り越えながら、どうやって相手を撃破していくかが描かれています。
しかし、この漫画、最大の山場はアクションではなく、なんと舌戦なんです。自身の理屈が正しいことを証明するために双方が知恵と言葉を尽くして戦います(インドアな漫画だとお思いかもしれませんが、舌戦の舞台はアウトドアの聖地みたいな場所です)。
また、突如、人とは違う不思議な力を手に入れて、謎の人物たちに導かれ、世界を救う戦いに巻きこまれていく、という少年漫画の主人公ど真ん中みたいな人物は物語の中盤でようやく登場します。さらに後半は群像劇として複数の物語が同時並行していくのですが、そのうちの一つは「世界の命運をかけたラブコメ」です(このフレーズは実際に作中で使われています)。
ひねりのある物語の展開が魅力的で、ありきたりな少年漫画に退屈し始めたという方にぜひ読んでいただきたいです。
さらに、ミステリ作家としてデビューされた城平先生の実力派『絶園のテンペスト』でも発揮されています。誰が真広の妹を殺したのか、という殺人事件についても意外な真相が明かされます。
最後に
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
原作、構成、作画と3人で作られた漫画だけあって非常にクオリティの高い作品に仕上がっているので、興味を持った方はぜひ、『絶園のテンペスト』を読んでみてください!